総合ブロデューサーからのメッセージ

「日本人の私がオペラを表現する意義とは何か？」

この疑問こそが私の研究活動の出発点になっている。私は東京藝術大学においてオペラを専攻する学生として、西洋の語学、歴史などを学び、また実技としてオペラにおける表現法、ものの考え方など様々なことを学んできた。ただ、オペラを勉強すればするほどその面白さを確信する一方、それは日本人の私が持っている美的感覚とは明らかに違うものだという確信もまた感じるに至った。

西洋の文化が観衆に対しあらゆる情報を与え、いかに舞台と観衆が一体となりカタルシスに到達するかということを目指すものに対し、東洋の、特に日本の文化は、例えば枯山水の庭園などに代表されるように、「石」という限定された材料と、極度に簡素化された造形という限られた情報量の中で、各個人個人がそれぞれ自由に想像を働かせ、精神の奥底でしみじみと感じ、感動へ至るという相違がある。

「日本人の私がオペラを表現する意義とは何か？」ということは、まさにこの感覚の相違という点にこそ存在するのではないかと考える。

あらかわ舞台芸術創造プロジェクトでは、「日本人の美意識」を最古の日本の伝統芸能「能楽」に求め、オペラ歌手、指揮者、作曲家が能楽師から３年間の指導を受け、一般の参加者を巻き込みながら3年間の時間をかけて日本人の美意識に基づく舞台芸術を創造していく。そこから創造される舞台が、未知の舞台芸術の可能性を導き出すことであろうことを確信する。この探求こそが、舞台芸術をより魅力的にする行為であり、我々が取り組んでいかねばならない事であると考える。

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